■トランプラリーとは? 「トランプラリー」とは、2016年11月8日(火)の米大統領選で、共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏(以下、トランプ氏)が民主党大統領候補のヒラリー・クリントン氏(以下、ヒラリー氏)に勝利したことを受けて発生した、強烈なリスクオン相場のことです。
【参考記事】
●米大統領選とは? 制度のしくみや特徴、米ドルなどの為替相場や株価への影響を解説
●ザイFX!で2016年を振り返ろう!(2)トランプ氏当選でまさかのリスクオン到来!
 トランプラリーによるリスクオンで、米ドル/円は以下のように推移しました。
米ドル/円 日足(2016年11月~12月)(出所:TradingView)
 米大統領選の投開票が進み、トランプ氏の当選が明らかとなった2016年11月9日(水)、米ドル/円は101.19円まで下押ししたもの、そこからグイグイと急騰。2016年12月15日(木)には118.67円の高値をつけ、その上昇率は17.3%ほどとなりました。
 また、トランプラリーを受けたNYダウの推移は以下のとおりです。
NYダウ 日足(2016年11月~12月)(出所:TradingView)
 NYダウはトランプ氏の当選がわかった2016年11月9日(水)の安値1万8252.55ドルから、2016年12月20日(火)の高値1万9987.63ドルまで、9.5%ほどの上昇を見せました。
■トランプラリーではなく、トランプショックが見込まれていた トランプラリーは2016年11月8日(火)の米大統領選でトランプ氏が当選したことを受けて発生したわけですが、実は、米大統領選の結果が出る前の段階では、市場関係者の間で「トランプ氏が当選したら、『トランプショック』でリスクオフになる」という見方が断然優勢でした。
 というのも、米大統領選でトランプ氏が掲げた政策や主張が、金融市場でもっとも嫌われる「不確実性」をもたらす可能性が高いとみなされていたからです。
 トランプ氏は元々、政治家ではありませんし、一般的な政治家からは出てこないような構想を繰り返し語ったりしていたため、「トランプ氏が大統領になったら、何をやるかわからない」という恐怖心が市場関係者の間にあったものと思えます。
 ここで2016年当時、トランプ氏が掲げていた政策や主張していた事柄を具体的に列挙してみると、以下のとおりです。
トランプ氏が2016年米大統領選で掲げた政策や主張
・中国や日本が、為替レートを低く抑えていると批判
・日本や韓国などに米軍の駐留経費の負担増を求める
・イスラム教徒の入国を禁止
・米国在住の不法移民を強制送還
・不法移民対策としてメキシコ国境に壁を造り、費用はメキシコに負担させる
・輸入品に高関税をかける
・北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しや環太平洋連携協定(TPP)の離脱を目指す
・海外進出した米企業を国内に戻し、雇用を回復
・今後10年間で2500万人の雇用を創出
・中間層や法人の大幅減税とインフラ投資
 上記の政策や主張は米国第一主義(アメリカ・ファースト)とも言われ、オバマ政権の国際協調路線に背を向けるものでした。
 トランプ氏が当選し、これらの政策や主張が現実のものとなれば、国際社会の緊張や金融市場の混乱は避けられず、世界経済に負の影響をもたらす「トランプショック」が起きる、といった警戒感や不信感が高まっていたのです。
 為替については、中国とともに日本も為替レートを低く抑えているとの批判の矛先となっていたため、もしもトランプ氏が当選したら、日本に何か圧力をかけてくるのではないかとの警戒感が漂っていました。
【参考記事】
●トランプ氏は不確実性の塊! 「もしトラ」が実現すれば米ドル/円は100円割れも!(2016年11月7日、西原宏一&大橋ひろこ)
●FBIによってリスクオフ再開! 誰が大統領になろうが、ドル/円は95円あたりをめざす!?(11月4日、陳満咲杜)
●山場は3つだが最大の山場は米大統領選。トランプ氏当選なら市場はパニック状態に!!(11月2日、今井雅人)
2016年11月8日(火)の米大統領選で当選したトランプ氏。だが、トランプ氏が掲げた政策や主張が、金融市場でもっとも嫌われる「不確実性」をもたらす可能性が高そうとの理由から、市場関係者の間では「トランプ氏が当選したら、『トランプショック』でリスクオフとなる」という見方が広がっていた (C)Scott Olson/Getty Images
■選挙戦を圧倒的優位に進めていたヒラリー氏だったが… その一方で、選挙戦を序盤から圧倒的優位に進めていたのがヒラリー氏です。
 ヒラリー氏といえば、ビル・クリントン元大統領を妻やファーストレディとして支え、ヒラリー氏自身もオバマ政権では国務長官を務めた人物。
 抜群の知名度と豊富な政治経験を武器に、女性初の米大統領誕生に向けた選挙戦を順風満帆に進めていました。
 トランプ氏とヒラリー氏は3回開催されたテレビ討論会で、「史上最悪の中傷合戦」と揶揄されるほどの罵り合いを展開。それでもヒラリー氏のほうが総じて優勢という見方が多かったのです。
【参考記事】
●お下劣トーク流出でトランプ陣営に悲壮感。クリントン勝利でもリスクオンとは限らない(2016年10月10日、広瀬隆雄)
●トランプいわく、大統領選は「八百長」でクリントンは「いじわるオンナ」らしい!?(2016年10月21日、広瀬隆雄)
抜群の知名度と豊富な政治経験を武器に、女性初の米大統領誕生に向けた選挙戦を順風満帆に進めていたヒラリー氏だったが… (C)Chip Somodevilla/Getty Images
 けれど、選挙戦も終盤を迎えると、ヒラリー氏が優位な状況に水を差す出来事が起こります。大統領選が間近の10月28日(金)になって、FBIがヒラリー氏の「私用メール問題」について「新たなメールが見つかった」として再捜査を発表したのです。
 これをきっかけにトランプ氏がヒラリー氏を猛追。結局、FBIは投票日目前の11月6日(日)に「ヒラリー氏の私用メール問題は犯罪に当たらない」と発表し、再びヒラリー氏が優位な状況に傾くなかで、11月8日(火)の米大統領選当日を迎えることになりました。
■リスクオフは超短命に終わり、強烈なリスクオンに 米大統領選では、米大統領を得票数で直接決定するのではなく、州ごとに設定された選挙人の獲得数で決定します。そのため、選挙人が多く、民主党と共和党の支持者が拮抗する「スイングステート」と呼ばれる州をどちらが制するかに注目が集まります。
【参考記事】
●米大統領選とは? 制度のしくみや特徴、米ドルなどの為替相場や株価への影響を解説
 ヒラリー氏が優位な状況で迎えた11月8日(火)の米大統領選当日ですが、日本時間11月9日(水)午前から開票作業が始まると、スイングステートであるオハイオ州やフロリダ州などでトランプ氏が勝利。
 そして、トランプ氏の当選確率が95%などと報じられ、一気にトランプ氏当選の機運が高まると、市場ではリスクオフの動きが加速しました。
 これは、市場関係者が「トランプ氏当選なら『トランプショック』でリスクオフ」と身構えていたとおりの展開で、米ドル/円は105円台から101.19円まで急落したのです。
【参考記事】
●激戦州のオハイオなどでトランプ氏勝利! ドル/円は101円台、日経平均は900円超安
●米大統領選挙は予想外のトランプ氏勝利! リスクオフで米ドル/円急落も意外な動き…
米ドル/円 日足(2016年11月~12月)(出所:TradingView)
 しかし、上のチャートを見てもわかるように、11月9日(水)の米ドル/円は長い下ヒゲをつけており、トランプ氏当選を受けたリスクオフは超短命に終わりました。日本時間11月9日(水)午後にトランプ氏が勝利宣言を行うと、一転して強烈なリスクオン相場となったのです。
 11月9日(水)のアジア時間に超短命のリスクオフ相場をこなしたことで、トランプ氏当選を受けた11月9日(水)のNYダウはリスクオンでスタート。そして、記事冒頭で書いたとおり、米ドル/円は2016年12月15日(木)に118.67円の高値をつけるまで上昇し、NYダウは2016年12月20日(火)に1万9987.63ドルの高値をつけるまで上昇したのでした。
米ドル/円 日足(2016年11月~12月)(出所:TradingView)
NYダウ 日足(2016年11月~12月)(出所:TradingView)
■速すぎるトランプラリーについていけなかった市場参加者も 大統領選前の段階では、市場関係者の多くはトランプ氏の政策や主張が金融市場に「不確実性」をもたらしそうとの理由から、トランプ氏が当選した場合は「トランプショック」のリスクオフ相場が起こることを見込んでいたと思われます。少なくともメディア報道などに表れていたムードはそうでした。
 しかし、トランプ氏が実際に当選すると、「トランプショック」は短時間で終わり、「トランプラリー」が続きました。そうなると、今度は一転してトランプ新政権による大幅減税やインフラ投資、雇用創出、それに伴う経済成長加速やインフレ期待上昇といった面ばかりが強調されるようになりました。レーガノミクスの再来を意識した「トランポノミクス」といった言葉が一時、飛び交ったりするようにもなったのです。
【参考記事】
●トランポノミクスが「株高・円安」を促進!? ドル/円は押し目買い継続、次は109円へ!(2016年11月14日、西原宏一&大橋ひろこ)
●レーガノミクス再来か。トランプ次期大統領のトランポノミクスのもと、ドル/円は109円へ(2016年11月10日、西原宏一)
 「トランプショック」に対して身構えていたところに、それとは真逆の「トランプラリー」が発生したわけですから、リスクオフポジションを取っていた市場参加者はあわててポジション解消を迫られ、それが「トランプラリー」をさらに勢いづけた可能性もありそうです。
 さらに「トランプラリー」は短時間で終わると思って、その後の「トランプラリー」の流れについていけなかった市場関係者も多かったようで、当時のザイFX!の連載コラムにおいても「スピード違反」「買い遅れ」といったワードが目立ったのでした。
【参考記事】
●米ドル/円は「買い遅れ組」の動きに注目! 豪ドルを買う理由がなくなってしまう!? (2016年12月19日、西原宏一&大橋ひろこ)
●米ドル高のスピードに市場参加者も驚愕! 来年のドル/円は130円へ上昇の可能性も(2016年12月15日、西原宏一)
●正体はショート筋が踏み上げられたこと! スピード違反のトランプ・ラリーも終焉近し(2016年11月25日、陳満咲杜)
●2週間で10円上げたドル/円、111円到達! “買い遅れ涙目”は多い。下げたら買い!(2016年11月21日、西原宏一&大橋ひろこ)
●トランプ・バブル!? 暴落から急反発はなぜ? ドル/円は100円をめざす前に110円打診か(2016年11月11日、陳満咲杜)
■トランプラリー関連のリンク集 ここまで、トランプラリーにおける米ドル/円やNYダウの値動きと、トランプラリーが発生した背景などについて説明してきました。ザイFX!のトランプラリーに関連する記事を以下にまとめましたので、興味のある方はご覧になってみてください。
【トランプラリー関連の参考記事】
●「トランプラリー終焉」との表現に違和感。NYダウは2万ドル、ドル/円は120円へ上昇!(2016年12月8日、西原宏一)
●トランプ・ラリーは米利上げまで!? ドル/円のターゲットは120円より110円が現実的!(2016年12月2日、陳満咲杜)
●米次期財務長官は元GS・ムニューチン氏。強気材料豊富なドル/円、次は120円へ!(2016年12月1日、西原宏一)
●ドル/円は今晩から反落? トランプノミクスはウォール街のハゲタカが演出した幻想だ!(2016年11月18日、陳満咲杜)
●トランプ相場で「米国買い」状態だがすべて憶測による値動き。崩れる局面あるかも…(2016年11月17日、今井雅人)
●トランプ大統領誕生で暴落後に株高・円安へ! だが、トレンドを作ると考えるのは早計!?(2016年11月10日、今井雅人)
●米大統領選の注目度高めた2つの理由は? トランプリスクさえ乗り切ればドル/円上昇(2016年11月4日、西原宏一)